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代  表 帰山雅秀
事務局長 後藤 晃

〒066-0028
北海道千歳市花園2-312 
千歳サケのふるさと館

電子メール

サンルダム建設論議に関する要望書

サンル川のサクラマスとカワシンジュガイは
世界の貴重な自然遺産


天塩川流域委員会委員長 清水康行 殿
国土交通省北海道開発局旭川開発建設部治水課内 天塩川流域委員会事務局 御中

 サンル川でのダム建設計画の検討にあたり,以下の事項について強く要望いたします。


  1. 流域委員会は,慎重に十分時間をかけて審議し,科学的知見に基づき後世の評価に耐えうる決断を行って下さい。
  2. サンル川のサクラマスに関する詳細な生物学的調査を事前に実施して下さい。
  3. 調査は再現可能な科学的方法に基づいて行うことはもちろんのこと,その調査結果を公表して下さい。
  4. 公的機関による河川工作物の建設にあたっては,当然実施されなければならない絶滅危惧種のカワシンジュガイ(環境省レッドリストにおいて指定)の生息環境と生息個体数密度に関する事前調査をサンル川において科学的に行い,調査結果を公表して下さい。
  5. ダム建設が実施された場合を想定して,サクラマスおよびカワシンジュガイの個体群の保護・保全の実施方法と実施プランを事前公表して下さい。

北海道淡水魚保護ネットワーク 
代表  後藤 晃 
2006年12月21日

【要望理由-1】 河川生態系とダム
 ◆ 河川生態系
 河川生態系は,魚類や水生動物などの生物生産の重要な場であると同時に,海洋生態系と陸域生態系の回廊(コリドー)として両生態系の相互作用の場でもあります。陸域の物質(土砂や栄養塩)は重力の法則に基づき河川から海洋へ運ばれ,海岸をつくり,魚を育てます。一方,サクラマスをはじめ,サケ・マスなどの遡河性魚類は海洋から陸域へ河川を通して物質を輸送し,陸域生態系の生物多様性と物質循環に貢献します。生態系は複雑かつダイナミックで不確実性の高いシステムです。生態系の機能と構造は,非生物環境と生物との相互作用と生物多様性からなります。人類はすでに地球生態系のドミナントであり,その挙動が一過性のものであれ,生態系に著しい影響を及ぼします。不確実性の高い生態系を管理することはむずかしいのですが,人類の活動は地球生態系の機能と構造を配慮しつつ行うことが,地球生態系ドミナントの責務であると言えます。
 北海道に限らずわが国の多くの河川生態系は,1970年代終わりまでにショートカット,河床掘り下げや三面ブロック化などによる河川工事とダムなど数多くの河川工作物により著しいダメージを受けました。そのため,河川に生息する在来魚は生息場や産卵場所が損なわれ,河川工作物や本流と支流の段差により隔絶され,不連続にパッチ状にしか分布できず,ボトルネック効果により遺伝的多様性を著しく低下させ,存続の危機に瀕しています。北海道に生息する在来の淡水魚は55種を数えますが,そのうち保護を必要とする絶滅危惧種などが21種,留意種が7種に及び,実に過半数以上の種が何らかの保護を必要としています。一方,北海道の淡水域へ侵入している外来種は35種(国内産12種,国外産23種)を数えます。その中には,IUCNが生物の多様性と人間活動に深刻な影響を及ぼし,生物学的進入として危険視している侵略的外来種ワースト100種の魚類8種のうち4種が含まれます。このように,北海道の淡水魚は全国の淡水域と同様に危機的な状況におかれていると言っても過言ではありません。
 ◆ ダ ム
 ダムによる河川生態系への影響は,特に河川分断による淡水魚類の種多様性への影響はきわめて大きいと言えます。北海道全域で過去50年間に行われた6674件の魚類調査の解析結果,時空間スケールを違えても淡水魚類の種多様性に及ぼすダムの負の影響は一貫して検出されております。よく,ダムにはサクラマスの上れる魚道を建設しさえすれば問題ないと言われます。しかし,魚道ができても遊泳力の乏しい小型の回遊魚が激減することは日高地方の河川ですでに観察されており,「魚道つき」のダムの上流側でウキゴリ、シマウキゴリ、マルタウグイ、エゾハナカジカやモクズガニが消失しております。生態系の機能は,生物多様性によりもたらされます。河川生態系における生物多様性を阻害する役割をダムが担っているということを熟慮して頂きたいと思います。

【要望理由-2】 サクラマス


 サクラマスは,サケ・マス類(サケ属魚類)の原種で,日本海周辺で誕生したと考えられております。サクラマスは,サケ・マス類の中でも日本,ロシアおよび韓国の環日本海にのみ分布する貴重な魚で,北海道レッドデータブックでは留意種,水産庁では減少種に指定され,国際的,国内的に保護を要すると評価されております。北海道のサクラマスは,数多くの河川工作物の設置,魚の生息環境に配慮しなかった河川工事によって,ここ30年の間に1/4以下に資源量が減少したとみなされています。サクラマスは,シロザケ(サケ)と異なり河川生活が長く,河川に1年以上生息してから海に降ります。そのため,河川の自然環境がサクラマスの生存に著しい影響を及ぼします。天塩川,特にその支流サンル川は北海道最後のサクラマスの宝庫と言われるぐらい,自然環境が豊かで大量のサクラマスが自然再生産しております。サンル川のサクラマスは正に世界の貴重な遺産であるといっても過言ではありません。この川に巨大なダムを造るということは,このサクラマス遺産を失うことにつながります。このダムは未来永劫に天塩川流域にとって本当に必要なのでしょうか?ダムは,本当に,サンル川のサクラマスに影響を及ぼさないと断言できるのでしょうか?孫子の代まで,そのことを保障できるのでしょうか?流域委員会は,天塩川支流のサンル川という自然遺産を守るために,決して焦らず,慎重に十分時間をかけて審議し,悔いのない決断を行って下さい。あなた方の意見が,ふるさと天塩川の河川環境とサクラマス遺産の行く末を決めることになるのですから。
 ◆ サクラマスの生活史
 サクラマスの生活史型は一生を河川で過ごす河川残留型と,スモルト期に降海し海洋で成長した後に河川へ回帰し産卵する降海型に分かれます。これら2つの生活史型は,同一の個体群内の生活史多型として存在します。産卵は秋季(主に9月)に行われ,受精卵は12月ごろ孵化しますが,仔魚は腹部の卵黄を栄養源として約4ヶ月砂利の中で過ごします。春季(3~5月)に卵黄を吸収した稚魚(体長約30mm)は産卵床から脱出して,自分で餌をとり泳ぎはじめます。体長50mm前後で初生鱗を形成し,遊泳能力も増し,幼魚期へと移行します。その年の5~7月の水温上昇期に体長70~80mm以上に急激に成長した雄個体が秋までに成熟に達して河川残留型となります。一方残りの雄個体とすべての雌個体のうち,秋季に90mm以上に成長した個体は,生活2年目の春季に銀毛(スモルト)に変態し,降海型となります。そしてこの時期に銀毛しなかった小型個体はその後に同じプロセスをくりかえし,いずれかの型に分岐します。銀毛した個体は春季(5~6月)に降海します。降海幼魚は日本列島の沿岸沿いに北上回遊し,7~10月にオホーツク海のサハリン東岸沖で越夏した後,晩秋に再び日本周辺の沿岸域に戻ってきて翌春の河川遡上期まで過ごします。翌年,融雪増水がはじまると,サクラマスは産卵のため河川へ遡上します。このように,サクラマスはサケと異なり生活史の2/3を河川に依存しております。
 ◆ サクラマスの分布
 サクラマスの降海型は,太平洋側では千葉県,日本海側では島根県以北の河川に遡上します。分布の中心は北海道日本海側の河川であり,特に天塩川,厚田川,石狩川,積丹川,尻別川,千走川,利別川,見市川などはサクラマスの自然再生産河川としてきわめて重要です。河川残留型の南限は鹿児島県川内川と宮崎県広渡川で,サクラマスの亜種であるアマゴの自然分布域を除く西日本を中心に広範囲に生息しています。サクラマスは北太平洋のアジア側にのみ生息し,日本と朝鮮半島東岸が降海型の分布南限となっています。

【要望理由-3】 カワシンジュガイ

 天塩川水系名寄川の支流“サンル川”には,環境省レッドリストで絶滅危惧II類に指定されている淡水生二枚貝のカワシンジュガイが生息しています。濾過食者であるカワシンジュガイは,北海道の河川の底生動物相を特徴づけ,また川水の浄化機能を有することから,河川生態系において重要な構成種であります。しかし,カワシンジュガイは自身の種の存在だけでその一生を送ることが出来ず,その幼生(グロキジュウム幼生)は,母貝から放出されると,サケ科魚類(サクラマス幼魚,あるいはイワナ幼魚)の鰓におよそ2ヶ月間寄生生活することが必要です。したがって,カワシンジュガイが生活環を全うし,河川に稚貝を安定してリクルートさせるためには,この宿主?寄生関係が健全であることがたいへん重要であります。幸い,サンル川では本貝の宿主となるサクラマスが自然産卵によって豊かな個体群を形成しており,それによって絶滅危惧種カワシンジュガイの生息条件が保障されています。
 ◆ サンル川のカワシンジュガイ
 本年10月にサンル川で実施したカワシンジュガイの生息調査によって,ダム建設予定地を含むサンル川上流域から下流域にかけて,カワシンジュガイが広く生息していることが明らかとなりました。特に,サンル川の中・上流域では若齢個体の生息が確認されたことから,サンル川ではつい最近までカワシンジュガイ稚貝のリクル-トが行われていたと考えられます。さらに,調査時には宿主となるサクラマス幼魚の生息も多数認められたことから,サンル川はカワシンジュガイにとって比較的良好な生息環境を維持していると判断されます。しかしながら,調査した5調査地点いずれの地点においてもカワシンジュガイの生息密度はそれほど高くはなく,また,殻長2 cm以下の小型個体の生息数は極めて少ない状態でした。このことは,現在でも豊かな河川環境を残していると言えるサンル川でも,カワシンジュガイ稚貝のリクル-トが著しく減少しており,本貝の希少化が確実に進行しつつあることを示唆しております。
 ◆ カワシンジュガイの寿命と生息環境
 また殻長組成調査の結果からは,上流域から下流域に向かうにつれて大型個体の占める割合が高くなることが示され,これは,サンル川上流域が稚貝の重要な着底サイトであること,また,増水等により上流から下流へと個体がゆっくりと流下することを反映していると考えられます。カワシンジュガイはサンル川の上流から下流の全域を利用することでその長い寿命(約100年)を全うすることができ,その長い歳月の中で成長・繁殖を繰り返して流域全体の個体群を維持させています。この個体群が今後もサンル川で存続していくためには,その上流域から下流域にわたる河道の連続性を含め,河川生態系を適切に保全することが必要不可欠であります。

  [本件の問い合わせ先]
   〒041-8611 函館市港町3-1-1
   北海道大学大学院水産科学研究院
   北海道淡水魚保護ネットワーク事務局
   事務局長 帰山 雅秀
   TEL/FAX 0138-40-5605
   E-mail: salmon@fish.hokudai.ac.jp