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第9回北海道淡水魚保護フォーラム

森と川と海の生き物のつながり

長坂 晶子(北海道立林業試験場

長坂晶子
ながさか・あきこ
福島県福島市出身。1995年北海道大学大学院農学研究科博士後期課程中退。同年北海道立林業試験場の研究職員として採用。3~4年で異動を繰り返し、現在は企画課研究主任。要請があればどんな研究テーマでも取り組んできたつもりだが、やっぱり川の研究が一番面白い(血が騒ぐ)。小中高通じて美術と音楽が一番好きだった。観る・聴くだけでなく、描く・弾くのも好き。現在の仕事との関係は? と聞かれると困ってしまう……。

森から海へ

 この10年ほどの間に、漁協の女性部など浜の母さんたちを中心に植樹運動が活発化してきました。海の環境を守り育てるには、山を再生させることから始めなければ、と考えるようになったからです。ところが、海の生き物に対する森の役割について具体的なことはまだよくわかっていません。そこで私たち道立林業試験場と、同じ道の研究機関である中央水産試験場、水産孵化場の研究仲間とで共同研究を行いました。

 海に流れ込む川、というと石狩川のような大河川を思い浮かべがちですが、海岸線をよく見てみると、渓流の様相のまま海に注ぐ川が無数にあります。こういう川では、森と海のダイレクトな関係を調べられるのではないか、と思いました。そこで私たちは、こうした海岸沿いの小さな渓流で、まず「落ち葉のゆくえを川から海まで追う」ことに焦点を当てて調査を始めたのです。

よこえび
写真1 タキヨコエビ。泳ぐのが上手です。

 川に落ちた落ち葉は、水生昆虫や、ヨコエビなどの小さな生き物の格好の餌となります。私たちが調査をした川では、とくに「タキヨコエビ」が多く棲んでおり、落ち葉を盛んに食べて分解していました。さらにタキヨコエビはヤマメ(サクラマス幼魚)の大事な餌となっており、季節によってはヤマメの餌の7割を占めるほどでした。
 
 川の落ち葉のほとんどは川の中で細かく分解されてから海へと流されますが、全体の4.5%程度は分解されないまま海に到達します。落ち葉が海底にたまっている様子を、私たちは「落ち葉だまり」と名付けたのですが、この「落ち葉だまり」には、海のヨコエビ(トンガリキタヨコエビ)が大量に生息していることがわかりました。この海のヨコエビも落ち葉を盛んに食べ、さらにクロガシラガレイ稚魚の重要な餌となっていたのです。
 

落ち葉だまり
写真2 沿岸河口域に点在する「落ち葉だまり」(柳井清治氏提供)

 もう一度海岸線の様子を思い浮かべてみましょう。一つ一つの川は小さく、そこから海に流れ出る落ち葉の量もわずかかもしれません。しかし、海岸に沿っていくつもの川が流れ込み、「落ち葉だまり」が点々とできているに違いありません。沿岸域で成長する稚魚や、ヨコエビなどの小さな生き物にとって必要不可欠な生息場を、森が提供する――これは森と川と海のつながりのほんの一端を示しているに過ぎないでしょうが、川で、海で、様々に利用される「森からの贈り物」の多様な役割を実感せずにはいられません。


海から森へ


写真3 産卵後,力尽きて死亡したサケ親魚

 サケ・マスは孵化後、降海して2~4年海で成長したのち、産卵のため生まれた川に帰ってくる「母川回帰」という習性をもつことでよく知られています。産卵を終えた親魚は、オス・メス共に全て死亡しますが、北米での研究によれば、このサケ(マス)の死体が、水生昆虫、クマ・キツネなどの哺乳動物やワシなど鳥類の餌となり、さらには養分として陸上植物にまで利用されることが明らかになってきました。私たちが道南のサケ遡上河川で行った調査によって、サケによる河畔林への養分添加が北海道でも共通して見られる現象であることがわかりました。北米では、この養分添加システムにより河畔林の生長量が増大しているという報告や、小動物から大型動物まで、様々な生物がサケ死体を目指して河畔にアクセスすることにより、種子散布される植物の種類が増加し、多様度が高くなっていたという報告までなされています。


流域をつなぐ森と川

 これまでの研究では、河畔林――すなわち森の存在がサケマスの生息場所を好適な環境に保つことが示されてきました。それが最近の研究では、海に目を転じれば、沿岸域に流出する落ち葉がクロガシラガレイの稚魚の保育場所となっていることが明らかになりました。加えて、海-川-森へと還元される養分の流れが、まさに森を豊かにする可能性があることが明らかにされつつあります。しかしその物質循環の場である河畔林帯は、とくに土地利用の進んだ中下流域で消失が顕著です。

 流域全体の物質循環を維持するうえで河畔域は「鍵」となる地域といえます。上流から下流へとつなぐ河畔林帯の保全や再生に配慮することは沿岸環境の保全にも効果的であるといえ、今後は流域全体を見渡した河畔生態系再生を目指すことが目標となるでしょう。地域ごと、川ごとに個性があり、植物や動物の種類や数も異なります。地域で暮らす私たち道民は、地元の自然をよく知ること――つまり、どんな生きものがいるのか、どんな暮らしをしているのか、どんな場所が必要なのか-を理解することが第一歩です。そうした情報や知識を共有し、私たちの暮らしと共存するにはどうしたらよいか、そして何より、次の世代にどんな自然を残せるかを考え、行動していきましょう。