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第7回北海道淡水魚保護フォーラム

川本来の機能
-生命の大動脈としての川と川づくりを考える-

妹尾 優二 (流域生態研究所所長)
せお ゆうじ  1951年、余市郡赤井川村生まれ。

物心つく頃から野山や川を唯一の友達として育つ。1970年、北海道開発コンサルタント株式会社に入社。農業土木・水産室にて主に河川計画や環境調査等に携わる。1991年、北海道開発コンサルタントを退社し、幼い頃からの夢を叶えるために株式会社エコテックを設立。生態系調査や環境アセスメント等の環境コンサルタント業務を行う一方で、流域生態研究所も主宰し、現在所長も務める。幻の魚イトウを始め、様々な生態系の調査・研究及び保護のため原生林や河川を一年中駆けめぐっている。

株式会社エコテック 代表取締役,流域生態研究所 所長,NPO法人水環境北海道 副理事長,NPO法人田園生態系保全機構 理事,NPO法人全国水環境交流会 理事


 川(水)は、すべての動植物にとって必要不可欠なもので生命の大動脈でもある。川は、太古の昔から自然の摂理のまま流れ続け、大地を形成し潤いをもたらしてきた。川との関わりの中で記憶に残っているのは縄文時代からであろう。縄文人は川に密着した生活しており、川を神として敬い川の行動範囲には住居も置かず、川の営みとともに生活してきた。
 縄文から弥生時代に移り、食糧は採取から栽培へと発展するが、栽培穀物といえばコメである。コメの栽培には水が必要不可欠なもので、最初は、水を容易に利用しやすい河口周辺などでコメの栽培が行われていたが、次第に沖積平野に拡大していき大規模化が図られていった。この時期から、川の水を利用する灌漑が始まり、河川も利用しやすいように改変されてきたのもこの時期からと考える。このように、文明の発達とともに河川との関わり方が変化してきたが、(知里真志保「アイヌ語入門」 1956)の著には、「古い時代のアイヌは、川を人間同様の生物として考えていたようで、生物

図1. 河川流域の変遷概要(妹尾1998より)
だからこそ肉体をもち、たとえば、川の水源を川の頭(ペッ・キタィ)、中流部を川の胸(ペッ・ラントム)、川の曲がり角を肘(シットク)とよび、幾重にも屈曲して流れる所を腸(カンカンあるいはヨシペ)河口を陰部(オ)と呼ぶのである」川からの恵みも神であり、川は下流から上流へ登るものとも記されている。
 これは、サケ・マスなど海から河川へ産卵のために遡上するのと同様な考え方で、川を登るという意味からきているものと考えられることから、支流の合流部は分岐または分かれと言われていたように上流に向かっての考え方である。
 このように、アイヌの川に対する感覚は弥生人とは異なっていたことが伺えるが、川とともに生活していた縄文時代から川を利用する弥生時代へと変化し、次第に河川周辺には広大な耕作地と集落が形成されてきた。これらがさらに拡大されることで、川から農地・集落を守るという目的から治水へと発展していく。
  明治29年には治水3法と言われる河川法、明治30年には砂防法、森林法が制定、本格的な治山治水事業が展開され、川を支配する時代に入った。戦後においては、さらに人口の集中化などによって森林伐採、これに伴って土砂の流出が増大し砂防事業の拡大、保水能力を失った流域は流出形態の変化から大洪水の多発化へと進み、流域全体を各行政区で管理しながら河川および河川流域は人為的な支配下に置かれた。
 この結果、川本来の機能は失われ河川流域すなわち「集水域」が「排水域」に変化してしまった。
 自然の摂理のまま流れ続け、大地に潤いをもたらしてきた水の流れ、それが今、各種背景の中から自然のバランスを失い、その姿を急速に失いつつある。このことが、魚たちの姿を消し、そして川で遊ぶ人の姿も消した。
 今後における川づくりも、徹底した川の支配理論ではなく、川の機能など基本的なことについて考えながら、生物とともに川を利用出来る川づくりを考える必要がある。現在、日本の科学技術は世界に誇れる水準であるが、川という本来の姿を理解し、川づくりの出発点を見失うことの無いような現場経験と川に対する知恵を身につけた上で論理の展開を行うことが必要である。


多自然型川づくりの現状と評価

 平成2年12月に通達された多自然型川づくり事業によって、多くの人々に自然環境の大切さ、強いては地球環境問題に対しての意識改革に大きな革命をもたらした。しかし、多自然型の川づくりの実態は河床低下や河道内の植生の異常配置による維持管理の問題など河川安全度や河川生物の生息環境などに多くの問題を残している。多自然型川づくりの基本理念は、「河川が本来有している生物の良好な生息環境に配慮し、あわせて美しい自然景観を保全あるいわ創出する」であるが、現在行われている多自然型川づくりの多くは、コンクリート護岸を自然石に変えることやコンクリートブロックの上に覆土緑化する、魚類生息環境創出のために水制工を異常に配置する、水の活動範囲を無視した植生(樹木)配置などによって、河川が持つ本来の機能が失われている河川が多いのが事実で反省すべきである。この原因は、先述したように、水の力や働きを無視して河川工学理論だけで水を強制しているところに問題があるようだ。
 川は、水が流れる過程で形成されたもので浸食・運搬・堆積と水の分散などの作用によって、河川内の縦断的な環境や陸域も含めた横断的な環境が多様化され、水生生物の生息や水際から陸域にかけての地形・地質の多様性、これに伴って植生環境の多様性が河川機能として重要となる。すなわち、川の持つ機能(川の地形勾配・流水・土砂の移動堆積など)を無視して、河川勾配と流水の水理学的関係について2次元的に追求してきた懸念があり、水の拡散性・集合性と土砂の堆積・移動性の関係について平面的要素を入れた立体的な検討がなされていない。東三郎(1982)も、流水と土砂の堆積の関連から平面的な広がりを持つ空間と砂防工学に関係する重要性を指摘し低ダム群工法を考案している。



図2. 河川法改正模式図及び基本的考え方


 また、生物学的なものも同様で、河川の持つ特性や生態系の基盤環境などを無視した調査・研究が先考された懸念もあり、多自然型川づくりに応用出来る内容となっていないのが現状である。
 例えば、平成3年に施行された水辺の国勢調査などのデータを多自然型川づくりに反映させる場合も、基盤となる環境条件が不透明であるが故、川づくりに対しての配慮事項や対策検討がおろそかになり護岸工法や植生配置などの配慮に止まっている。 さらに、平成9年に河川法の改正のもと治水・利水と同格に環境(河川環境の整備と保全)が加わった。 治水・利水・環境が河川法の中に位置づけられたことで、工学的研究のほか生物学的研究も重点的に行われるようになり、各種データが蓄積されているにも関わらず、良い川が出来ていない状況で、何が欠けているか真剣に考える必要がある。現在の研究は、治水・利水・環境とそれぞれ分離された分野の中で行われている。科学的データが優先する現在、数値化の可能な範囲でのデータ収集、すなわち、図2の右図に示す各分野が交わる空間は、数値化出来ない経験や知恵の分野で、この一番重要な基本事項が欠けていることにあると考える。
 多自然型川づくりにおける基本事項は、河川の形態と生物の関係、水の力と土砂の関係などの因果関係を十分に理解しないと川づくりにおける方向性(出発点)を見失うことになる。多自然型川づくりは、治水という安全な川づくりと同時に、本能で生活する動植物の生息環境の創出や河川景観など人間の論理では解決出来ないものがある。さらに、河川形態や河川周辺の植生環境などは5年・10年・50年という時間空間も考慮しながら行うことが重要であるため、水の力によって形成される河川のしくみや水の働きによって形成された河川周辺の地形・地質及び植生環境など経年的変化も踏まえ理解することである。



多自然型川づくりが、いつの日か多自然型工法と言われるようになり、川づくりの多くは以下のような川づくり工法が行われるようになった。

 aコンクリートブロック護岸から自然石及び柳等の植物護岸
 bコンクリートブロック上に覆土及び芝緑化
 c植生コンクリートブロック
 d籠マットによる護床・法面護岸の導入
 e魚類生息施設としての水制工の異常配置
 f木工沈床による河岸・護床護岸
 g水深確保のための低々水路の設置
 h魚類移動施設(魚道)の設置

多自然型工法として実施された川づくりも、河川断面や河川法線などの考え方は従来と大きな変化がないため、水が強制され河床低下や土砂の多量流出など多くの問題が浮き彫りとなり、河川自体の安全性にも疑問が感じられる。


 このように多くの工法によって多自然型川づくりが実施されているが、工法先行型の川づくりになったのは、各種参考書の影響も大きいと考えられる。川づくりの技術者も多自然型川づくりに対して手探り状態であったことから景観設計の考え方、多自然護岸工法、魚類生息環境施設、河畔林造成など多くの参考書が多自然型川づくりの手引き的な役割を果たし各地で同様な河川が出来上がった懸念がある。
 全国の川づくりの中で、国交省等が紹介されている河川は、比較的優秀な川づくりが行われている河川で、川に対する知識及び川の風景など川本来の姿を描ける技術者が行った川づくりはすばらしいものがある。しかし、河川工学的な理論で行われた川づくりは、護岸や植生及び河川修景など河川公園的な川づくりとなっていると同時に河川断面の画一化による水の強制が河川生態機能を損ねる原因となっている。
 また、水の力による川の変化や土砂の堆積などを考慮して各種工法を検討しなければ、施工直後に100点の川であっても時間の経過とともに川の機能が低下し人間を始め動植物の利用も不可能な川になってしまうことになり、現状での多自然型川づくりの問題点としては、植物の異常配置による河積阻害や水の強制による河床低下などによって治水・生態機能が損なわれている河川が多く、今後に多くの問題を残している。


多自然型川づくりを変えるポイント

 多自然型川づくりにおける現状認識としては、直線的河道法線から蛇行河川にする(Rの付いた)、コンクリートブロック護岸を自然石護岸にする、ブロックの上に覆土を施し植栽する、植物による護岸、河川横断構造物への画一的な魚道設置など様々な工法が考えられてきた。
 この結果、強制された河川内での各種多自然型工法によって様々な影響を引き起こしている。その大きな原因は、水の強制によって土砂コントロールが行われず河床低下が進行し、魚類の生息環境や河岸植生の不安定など各種の問題が生じているほか、河川構造の安全性も疑問視される。また、河川の機能と魚類の関係から見ると河床低下による岩盤等の露出や河岸護岸により周辺からの地下水の遮断など魚類生息にとっては大きな問題を引き起こしている。
 このような問題を解消していかなければ、魚類の生息環境の創出や河畔植生の維持・保全及び河川構造の安全性などを望めないと考える。前項で述べたように、川は水が作った器で地形・地質条件の中で多様な環境を創出させており、この環境の中で人間を含めた各種動植物が利用している実態を今後の川づくりに反映させることが重要である。
 そのためには、河川計画に携わる工学・生物などの技術者は、川本来の機能や働きについて川を見ながら、その形態を肌で感じ取ってもらいたい。また、この川を利用する生物についても水の作った各種環境条件の中でどう生息しているのかについて、各種生物と共に生活するくらいの気持ちを持ってほしいものである。さらに、河川景観は公園的な発想でデザインしても5年、10年、50年と変化するものであることも十分理解し、50年後の河川環境や河川景観を見据えた河川計画を行う必要があり、施工したとき100点の川と判断しても時間の経過と共に0点になるような川では排水路同然と言えよう。川に魚釣りに言ったとき、大量の魚を放流した改修河川で、いくら釣果をあげても満足感が得られない。しかし、自然河川で少ない釣果でも釣りに対する充実感を味わうことが出来る。これは、河川形態、川の流れる様、流れる音、周辺に繁茂する多様な植生など総合的な環境がそうさせるのである。

 川は、見れば見るほど難しい。これを克服して始めて多自然型川づくりが可能となる。

参考文献
1) 知里真志保「アイヌ語入門」北海道出版企画センター 1956.6
2) 妹尾優二「河川生態系の再生と河川改修技術」:中日渓流生態保育研討会, March 4-7, 1998
3) 東 三郎「低ダム群工法」北海道大学図書刊行会 1982.3

「北海道・淡水魚保護フォーラム No.7
 「命の回廊(コリドー)としての川を取り戻す」(2006年9月23日、函館市) 講演要旨

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