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第6回北海道淡水魚保護フォーラム

生物多様性保全と自然再生

鷲谷 いづみ (わしたに いづみ)
  東京大学

 「生物多様性」は、この地球上での数十億年の生命の歴史がつくりだした夥しい種類の生き物が互いにかかわりながら生きており、ヒトもそのネットワークの一員であり、それらによって人間の生存基盤ともいえる生態系の健全性が支えられている、ということをあらわす含蓄の深いことばである。最近では人間活動の強い影響のもとに多くの生物の種類が絶滅したり、絶滅の危険にさらされ、急激にしかも全般的に自然の豊かさが失われ生態系の不健全化がすすみつつある。そのことは、自然の恵み、すなわち生態系を構成する多様な生物の連携プレーによって産み出される財やサービスにたよって生きざるを得ない私たち人類の将来に暗い陰を投げかけるものである。

 そのような危機意識の高まりから、1992年の地球サミットで「気候変動条約」とともに「生物多様性条約」が採択された。生物の絶滅と生き物豊かな森林やウエットランドなどの喪失を防ぎ、自然の恵みを持続的に利用できるようにするためである。現在では188カ国以上がこの条約に加わり、自国の生物多様性の保全、つまりそれぞれの国に固有な自然を大切にする義務を負っている。条約における生物多様性は、地球上のすべての生命に表れている多様性を意味する。比較的把握しやすい種の多様性(生物の種類の違いとして認識できる多様性)に加えて、遺伝子の多様性(同じ種の中の遺伝的な差異、個体差によって認識できる多様性)と生態系の多様性(生以来の脱亜入欧策によって現在では征服型戦物とその環境がつくるシステムの多様性)をも含むものと定義されている。

 生物多様性は、個体群や生物群集における個体間、種間のさまざまな関係とそれらのネットワークによって維持されるものである。多様なプロセスや関係が絡み合うダイナミックなシステムに特有な多様性である。したがつて、たった一つの種、一つのタイプの生態系の喪失が、多くの種や他の生態系にも連鎖的な影響を与える可能性がある。

 生物多様性というキーワードのもとに、環境との調和の途を探ろうという20世紀の最後の四半世紀になってから優勢になってきた対環境戦略は、伝統的な共生型戦略から受け継ぐ人や生物に対する穏やかさと、征服型戦略の特性ともいえる問題解決のための強い意志や積極性を統合したところになりたつものである。それは、積極的共生型戦略と呼ぶことができるであろう。世界中ではじまっている環境再生の取り組みの多くは、この第三の対環境戦略の潮流に位置づけることができる。現在の危機の現状を考えると、環境再生は、前向きで積極的な働きかけを持続して初めて可能となる。受動的に事の流れに身を任せるだけではなし得ない事業である。このような第三の対環境戦略は、日本では、生物多様性国家戦略やその中で提案された自然再生という取り組みとして具現されようとしている。

 縄文時代以来どちらかといえば共生型戦略で環境に対処してきた伝統をもつ一方、明治戦略の強い影響下にある日本において、この第三の対環境戦略がどのように展開するかは、人類の持続可能性確保にも大きく影響するものではないかと考えられる。征服型戦略の帰結として不健全化が著しく進んだ日本列島の生物生産システムを積極的に共生戦略へと変えていくことは、現代の最優先課題のひとつといえそうである。

 開発による生息・生育場所の喪失・分断孤立化、汚染など環境条件の悪化とともに生物多様性を脅かしているのが外来生物である。2004年にIUCNが発表したレッドリストでは、哺乳類や両生類の1/4~1/3が絶滅危惧種となっている。近年まで、人間活動の場にも豊かな牛物多様性が息づいていた日本列島においても危機の進行は著しく、国際NGOのコンサーベ一ション・インターナショナルの37箇所の生物多様性ホットスポッ卜(本来は生物多様性が豊かな場所でありながら危機が進行している地域)に選定されている。かつては普通に見られた野草や両生類、水生昆虫、淡水魚などが絶滅危惧種となり、生活域の生態系の健全性が急速に損なわれつつある。

 その一つの原因となり、またその蔓延自体が生態系を単純化し不健全化する外来生物の問題も深刻化の一途を辿っている。ここでは、なぜ外来生物は生物多様性の脅威となり生態系の健全性を脅かすのか、その生態学的な理由を説明すると共に、ここ1,2年前から北海道で急激に増加し、生態系への影響が危惧されるセイヨウオオマルハナバチの侵人実態や監視・排除活動の必要性などについても触れる。(図:マルハナバチ類の巣の一年


拡大をつづける『セイヨウオオマルハナパチ」から花とマルハナパチの
素敵な関係を守るために
みなさんの力を貸してください

「セイヨウオオマルハナバチ」は何が問題なの?
マルハナバチってどんなハチ?

庭や公園の花に、ミツバチより大きく、丸くて毛のふさふさしたハチがもぐりこみ、夢中で蜜や花粉を集めているのを見たことはありませんか?
北海道であれば、それは多くの場合、マルハナバチの仲間です。マルハナバチはミツバチに近い仲間で、花の蜜や花粉を食べます。ネズミの住んでいた穴などを使って地面の中に巣を作り、女王バチを中心に、その子ども達が大家族で暮らしています。

花とマルハナバチの切っても切れない深い仲
花粉や蜜を集めに花を訪ねるマルハナバチ。でも、実は、花の方でもマルハ才バチの訪問を待ら焦がれているのです。マルハナバチは、花粉を運び、受粉を助けてくれる大切なパートナー。どのハチがどんな花を訪ねるか、実は、種類によって、ちゃんとお相手もきまっているのです。花のほうでも、花粉を運んでもらいやすいように、様々に色や形を進化させ、もちつもたれつで、命をつないできたのです。北海道にはもともと11種類のマルハナバチが生息し、絶滅危惧種を含むたくさんの野生植物の花粉を運ぶ昆虫として、とても大切な役割を担っています。

大変!マルハナバチがピンチ!? ~セイヨウオオマルハナバチの侵入~
ところが、この花とマルハナバチの素敵な関係に、大きな危機が迫っています。
外来種・セイヨウオオマルハナバチの侵入です。セイヨウオオマルハナバチ(「セイヨウ」と略します)は、温室トマトの受粉を助ける昆虫として1992年から使われるようになり、現在ではオランダから年間7万個もの巣が輸入されています。
「セイヨウ」は北海道にもともと住んでいるマルハナバチに比べて競争カが強く、エサ(花の蜜や花粉)』や巣(ネズミの古巣)などを独占し、ほかのマルハナバチ類の生活を成り立たなくしてしまう恐れがあります。困ったことに、この「セイヨウ」が既に北海道で野生化し、増え始めているのです。

定着を続けるセイヨウオオマルハナパチ
花とマルハナバチの関係を大切に考えている私たちは、「セイヨウ」が日本で使われ始めた当初から、逃げだして野生化することを心配していました。1996年、おそれていたことが起こりました。「セイヨウ」が野外で作った「巣」が発見されたのです。調査を続けてきた北海道日高地方では、その後も沢山の巣が発見され、定着したハチの数もここ数年で急増しています。
もともと北海道に住んでいるマルハナバチに比べて競争カが強いだけでなく、「盗蜜」といって、受粉を助けずに蜜だけを盗むのがうまいため、「花たちのパートナー」の代わりにもなれません。しかもこのハチは1つの巣から、100匹もの新しい女王を生産する、高い増殖カを持っています。マルハナバチと花たちの素敵な関係はどうなってしまうのでしょうか?

皆さんにお願いしたいこと「マルハナバチ・モニター」のお願い
「セイヨウ」の侵入によって、もともと北海道にいるマルハナバチは減ってしまうのでしょうか?それとも変わらないのでしょうか?花たちは大丈夫なのでしょうか?今後、花とマルハナバチの関係がどのような状況になっていくのかを知るためには、「現在どんな種類のマルハナバチが、どこにどれくらいいるのか」を調べなければなりません。けれども、数が限られた私たら研究者だけではとても手が足りません。また、自然が時間をかけて作り上げてきた「花とマルハナバチの素敵な関係」を守るには、野外で増えている「セイヨウ」を1匹でも多くつかまえることが必要です。そのために、カを貸していただける「マルハナバチモニター」を募集しています。お願いは2つです。

(1)皆さんのお庭にやってくるハチの種類と数を、ガイドを参考に調ぺてください。
(2)
もし「セイヨウ」がやってきたら、出来るだけつかまえてください。
(つかまえ方については、後のぺージをご賢ください)。



調査の方法

調査の時期:マルハナバチの活動する5~10月
調査の方法:お庭のお花(サクラ、ツツジ、ドウダンツツジ、グミ、シソ科のハーブ、ダリア、コスモスなど)に訪れるマルハナバチを観察し、マルハナバチの種類と数、訪れていた花の数を別紙の調査用紙に記入してください。種類については、カラーグループ・ガイドを参考に、もっとも近いカラーグループの番号か、名前を書いてください。

★★調査にご協カいただける方には、カラーグループガイドと調査用紙をお送りしますので、下記保全生態学研究会までご連絡ください★★

保全生態学研究会事務局
 〒113-8657
 東京都文京区弥生1-1-1東京大学農学生命科学研究科
 保全生態学研究室内
 Tel 03-5841-8915  Fax 03-5841-8916
 Eメールアドレスbusters@cons.es.a.u-tokyo.ac.jp

~セイヨウオオマルハナバチを見つけたら?~
下記を参考に、出来るだけつかまえてください。
(5,6月に活動する女王バチは巣作りを控えているので、この時期の女王バチを1
匹つかまえるのは、巣を1つ取り除いたのと同じ効果があります。)

捕獲したら…刺されないように注意してくださいね!

(1)小さな空気穴をあけたフィルムケースに1匹ずついれる。(針やとがったペン先で穴をあけてください)。

(2)フィルムケースに油性ペンで日付と標本番号をかく。標本は、フィルムケースにいれたまま、調査用紙と一緒に

(1)その日のうちに郵便で送る。
(2)冷凍庫で保存し、後目まとめてクール宅急便(着払い)で冷凍のまま送る。

どちらかご都合のよい方法でお送りください。

 
セイヨウオオマルハナバチのつかまえかた

<捕虫網でつかまえる場合>
1.丈の低い草花にいるハチを捕るときは、草ごと入るように上から素早く網をかぶせ、網の口が完全に地面につくようにする。丈の高い花木などの場合は、ハチをめがけて素早く網をふり、そのまま網の口が地面につくまで勢いよく振り切る。*地面まで振り切れないときは捕ってから網を空中でねじって出口をふさぐ。

2.ハチが出ない状態で網の先を上に持ち上げ、ハチを網の先に誘導する。
*マルハナバチは上に向かおうとする性質がある。
3、もう片方の手で、フタを外したフィルムケースにハチを入れる。このとき、網がケースのフタの役目をはたすように、ケースで網をもちあげ網がぴんと張るようにする。 4.ケースにフタをして捕獲完了。このとき、網とケースの間に隙間ができないよう、網をケースのフタで置き換えるようにフタを滑らせて閉める。フタで網を挟んでしまったらフタを少し浮かせ静かに引っ張って網を外す。


~つかまえるときの注意~刺されないためには?

ハチに直接さわらない、あわてない。
ハチが逃げようとしても、閉じこめようと、無理に手を出さない。

もし、刺されてしまったら?
マルハナバチは攻撃的なハチではないので、直接手で握ったりしない限り刺されることはめったにありませんが、もし刺されたら次の処置をして下さい。

①(思いのほか痛くてびっくりされるかもしれませんが)あわてずに、すぐに口で毒を吸い出して下さい。ポイズンリムーバー(登山用品店などで入手司能)も使用できます。

②患部をしぼるようにしながら水道の流水で毒を流し、絆創膏等で患部を保護します。
顔面蒼白、全身の震え、吐き気や嘔吐などの症状(アナフィラキシーショック)が出た場合は、緊急に病院で治療を受けてください。

標本と調査用紙の送付方法
(送付先)
 上記同様
(送付方法)
 調査用紙と標本(フィルムケースのまま)は、必ず一緒にお送りください。
 送り方には、下記2通りがあります。

その1 捕獲したその日に送る:普通郵便でご送付ください。
その2 ご家庭の冷凍庫で保存し、ある程度標本の数が集まってからまとめて送る(1ヶ月に1度など)。この場合は、ご一報の上クール宅急便の着払いで冷凍のまま送付して下さい。

頂いた情報は全て「保全生体学研究会」でとりまとめ、ホームページや学術誌などで公表するほか、セイヨウオオマルハナバチの問題に関する今後の対策に役立てられます。

「北海道・淡水魚保護フォーラム No.6
 「なぜ、川の自然と淡水魚を守らなければならないの?」(2005年7月16日、札幌市) 講演要旨
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