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第6回北海道淡水魚保護フォーラム

生物多様性保全と自然再生
生物多様性保全と自然再生

丸山 博子 (まるやま ひろこ)
  丸山環境教育事務所


1.環境教育とは…


 環境教育を換言するならば、「持続可能な社会をつくるための教育」ということができます。
 今日の地球環境は、地球温暖化から身近な自然の減少などさまざま問題をかかえ、決して持続可能な状態であるといえません。これらの間題を解決して、健康で文化的な生活を継続させていくことが環境教育の目的です。
 環境教育の国際的な広がりの契機は、地球規模の環境間題の広がりにともない、1972年の国際連合人間環境会議において、環境問題が人類の存在に関わる重要な共通課題として認識されたことにはじまります。ここで、環境教育の目的が以下のように確認されました。「自己を取り巻く環境を自己の出来る範囲内で管理し、規制する行動を、一歩ずつ確実にすることのできる人間を育成することにある」。わが国では環境庁が誕生した時代にあたります。その後、国内で「環境教育」が語られるようになったのは、1980年代に入ってからです。そして、2000年に「環境の保全のための意欲の増進及ぴ環境教育の推進に関する法律(環境教育推進法)」が制定されました。この法律は、環境教育を推進し、環境の保全についての国民一人一人の意欲を高めていくことなどを目的としています。
 大量生産、大量消費、大量廃棄という社会経済のしくみや快適性や利便性の追求を求める生活様式と深く関わっているのが環境問題ですが、その解決の方法としては「規制」、「技術革新」および「意識改革」の3つがあるといわれています。このうちの「意識改革」をすすめるための活動が「環境教育」と呼ぱれます。「意識改革」がなけれぱ「規制」は守られることがなく、また新しい技術革新も生まれることはありません。環境問題を解決し、持続可能な社会を作っていくためには、「一人一人の意欲の増進と意識の改革」が基盤になるものであり、そのためには教育という手法が効果的であるという認識によるものです。

環境の保全のための意欲の増進及ぴ環境教育の推進に関する法律(環境教育推進法)概要
1)持続可能な社会の構築を目的に、環境保全の意欲の増進及び環境教育の推進を進める。
2)環境保全に関する情報提供や環境保全に関する体験機会を重視する。
3)森林、公園、河川、海岸等の自然環境育成、国土保全等の公益との調整、地域の農林水産業等との調和を保って推進する。
4)地域における環境保全に関する文化及び歴史の継承へ配慮する。
5)国及ぴ地方公共団体は、事業者、国民及び民問団体の協力と連携により推進する。
6)地方公共団体は、推進に関する方針、計画等を作成するよう努める。
7)学校教育等における環境教育を支援する。


2.誰が、どこで、どのように担うのか?

 「これまでに環境教育を受けたことがありますか」という問いに対しては、残念な現状
ではありますが、多くの人から「無い」または「わからない」という答えが返ってきます。しかし、環境教育が行われてきていないわけではなく、環境教育は、「環境教育」であると認識されていないものとして多く存在していることによると思われます。たとえば、学校教育においては、1989年に小・中・高等学校学習指導要領の改訂で、多くの教科、道徳、特別活動において、環境教育にかかわる内容が重視され、1991~2年には『環境教育指導資料』が作成されています。しかし、「環境教育」という科目として存在するのではなく、各教科のなかで横断的、総合的に取り扱われてきているため、環境教育という言葉として認識されていないことが考えられます。社会教育をはじめ、普段の生活のなかでは、ごく普通に広く一般的に行なわれており、その担い手も多岐に渡ります。リサイクル推進やごみの分別などの行政の取り組み、エコマークのついた商品を開発販売する企業、新聞やテレビなどのメディア、ときには音楽や写真などの芸術が、環境教育的目的あるいは効果を持って活動、存在しています。しかし、これらの活動が、環境教育の役割を果していることを自覚していない場合が多い結果、環境教育としての認識を低く留めている一因になっていると思われます。環境教育は、特別なものではありません。「環境間題を解決する活動を行なう」ことだけではなく、「環境のしくみを知る」「環境問題の実態を知る」「原因や解決方法を知る」なども、すべて環境教育です。環境教育は、短期間に集中的に行なわれるものではなく、きめ細かくあらゆる機会において行なわれるべきものであり、また一部のものが担う行為ではなく、誰もが担うことのできる生涯教育として認識されることを、環境教育事業者の一人として望んでいます。環境教育推進法には、この法に基づき、地方公共団体が、地域の応じた推進方針、計画等を作成していくようにと記されています。具体的な計画が示されることで、様々な主体が担い手であるという意識が高まっていくことが期待されます(表1参照)。

図2環境教育の目的と段階
   (ベオグラード憲章を改変)

興味・関心・・・目がむく目が止まる:
知識・理解・・・頭でわかる
態度・・・・・・・・こころでわかる・
          納得する・願う:
技能・・・・・・・・やりかたがわかる・
          できる
評価能カ・・・・・確認して選ぶ
参加・行動・・・・実際に行う
ベオグラード憲章(1975年)
 個人および社会集団が具体的に身に付け、実際に行動をおこうなうために必要な目標として以下の6項目が環境教育のねらいとして明確化された。
1)関心:全環境とそれにかかわる問題に対する関心と感受性を身に付けること。
2)知識:全環境とそれにかかわる問題およぴ人間の環境に対する厳しい責任や使命についての基本的な理解を身に付けること。
3)態度:社会的価値や環境に対する強い感受性、環境の保護と改善に積極的に参加する意欲を身に付けること。
4)技能:環境問題を解決するための技能を身に付けること。
5)評価能力:環境状況の測定や教育のプログラムを生態学的・政治的・経済的・社会的・美的、その他の教育的見地にたって評価できること。
6)参加:環境間題を解決するための行動を確実にするために、環境問題に関する責任と事態の緊急性についての認識を深めること。


3.自然体験による環境教育のねらい

 環境は対象や範囲が広いため、その問題解決の方法も多岐に渡ります。そのため、環境教育も分野に分けて語られることがあります。南北問題などの国際的な環境課題の解決を行なう国際理解教育、都市型の生活スタイルによる課題を扱う都市環境教育、エネルギー教育、食環境教育などがその例の一部です。そして、これらの課題は、普通相互に複雑に関連し合って存在しています。
 いずれの分野においても、環境保全のためには、まず問題の現状や事実を正確に理解することが必要です。そして次に、その環境悪化の現状に悲観的になるのではなく、問題解決のために行動をおこしていく意欲と手段を手に入れなければなりません。そのために、自然のしくみやいとなみをお手本にしようというのが、自然体験による環境教育という方法です。
 正常な自然のしくみやいとなみのなかに存在する共生型、循環型、協働型のしくみを知ることによって、そこから現在かかえている問題を解決し、目指す環境再生・修復のすがたを想定し、地球の上で持続的に生きていくための方法を見つけていくという考え方です。このためには、身近な自然環境、多様な自然環境、そして何より健全な生態系が存在する環境が不可欠です。これを失うことは、いわばバイブルを失うことに匹敵します。環境問題の解決に緊急性を要している今日においては、環境教育は子どもたちに対してだけではなく、むしろおとなたちに対して必要な教育であるといえます。現在の社会をつくり、変えていく現役の担い手はおとなたちであり、将来に渡り地球のすばらしいしくみを知るための場を保障する責務を負っているのもまたおとなであるからです。

 
4.河川環境教育の課題とめざす方向性

 以下、筆者が参画した事例のうちから、課題を含めてその概要を紹介します。

休耕田などを活用した湿地ビオトープの環境教育の場としての役割
 農村の多面的機能を増進させることを目的に行なわれた平成12~16年の道央の谷津田地帯のモデル試験地において、地域の児童の学校教育活動における行動について調査しました。
 児童が興味を持つ対象は「動物や植物」であり、興味をもつ活動は「生き物を見つけたりとったりする」行為であるという結果が、また札幌市内の児童に村するアンケート調査では、興味のある環境として「森・湿地・水田・川」のなかから選択された環境は「川」が高く、興味のある対象は「動物」に多いという結果が導かれました。
 さらに学校ビオトープを有する小学校への聞き取り調査では、多数の児童の立ち入りや生物採取の結果、生息環境が悪化することが課題としてあげられています。
 これらのことから、教員や児童は、思う存分川で生き物を探したり、捕獲する活動を行うことを望んでいることが想像されます。

水辺の楽校
 完全学校週5日制や小中学校における「総合的な学習の時間」の実施を背景に、環境教育や白然体験活動のフィールドとして、身近な河川環境の利活用を進めるために、国土交通省「水辺の楽校プロジェクト」が平成8年度より推進されています。同年に登録された札幌市の真駒内川水辺の楽校の推進協議会に同席された学校長より「そもそも学校では川で遊んではいけないという指導を行なっている。私個人としては、是非川で遊んだり学んたりしてほしいのたが」という御発言が課題を的確に表現しているものとして記憶に残っています。現在は、水辺での活動を安全かつ充実したものとするために必要な整備や指導者の育成がさらに進み、楽校数も全国で244箇所(うち道内26個所)と増え、義務教育のなかで河川環境を体験する機会が増していることはまちがありません。整備で河川工事をともなう場合の.工法や管理の難しさと指導者の不足は、依然課題として残されている点であると思われます。

指標生物による環境評価
 健全な生態系を有した河川環境は多くはなく、さらにそのような場所で環境教育を行う機会は非常に少ないのが現実です。しかし、健全であれ、健全でなかれ、環境の現状を見つめることは、そこに存在する自然のしくみや問題点を発見するという点においては共通であり、環境教育を展開していく可能性をもっています。その可能性を高めるものは、環境を理解し評価する視点の存在であり、その多くの場合は指導者の存在と力量にゆだねられています。生き物探しを楽しむことで終了してしまうのではなく、なぜそこにその生き物が生息しているのか、この場所にはどのような歴史があるのか、この場所は今の状態で好ましいのかなどを考えることで、興味の対象は、河畔林、ダム、排水、水質、漁業資源などに及び、水が介する循環を通して、地球環境へとつながっていくはすです。楽しい体験に終止せずに、課題の発見や解決につなげていくための問題意識の視点を持ち込むことで、教育を深化させていくことができます。

 河川環境を理解し評価する視点として、親しまれているものに指標生物を使った観察があります。生息している生物の種類によって、主に水の汚れ具合を知るという方法です。生き物を採取するという人気の高い活動であることはもちろん、指標となる生き物だけを取り扱うことで活動が可能であるという指導のしやすさが何よりの普及の理由であるとおもわれます。
 河川空間に、生態系が健全なかたちで保たれているとしたなら、自然のすぐれたしくみを学ぶことができるだけでなく、同時にその生態系を保ち、支えるための技術や仕事、活動などの存在を知り、さらには河川環境をはじめ社会や地域の問題や課題、価値観を知ることができるはずです。そして何より、環境教育活動が進むことによって河川空間そのものが、より美しい、心地よい、理にかなったものに生まれ変わっていくことこそが重要な目的です。

 「治水は河川の上にあらず、人心の上にあり」という田中正造氏の言葉は、環境問題は、環境の問題ではなく、人の問題であるということを再確認させられるものとして、環境教育の世界においても常に繰り返し確認されている啓示のひとつです。
 自然が持っている「全てのものが関わりあうことではじめて成り立つ仕組み(生態系)」は、現在の私たちの社会のあり方そのものの課題さえも解決する「ものさし」であると考えるなら、環境教育の目標は、すべての人がこのものさしを使って未来を設計することといえるかもしれません。

引用参考文献
1)環境省環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律(環境教育推進法)
2)国際教育協力懇談会事務局国際教育協力懇談会資料集(平成14年7月)
3)北海道農業試験会議(成績会議)資料平成16年度

「北海道・淡水魚保護フォーラム No.6 「なぜ、川の自然と淡水魚を守らなければならないの?」(2005年7月16日、札幌市) 講演要旨

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