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第6回北海道淡水魚保護フォーラム

生物多様性保全と自然再生
生物多様性保全と自然再生


福島 路生 (ふくしま みちお)
独立行政法人国立環境研究所


はじめに

 “自然河川"という言葉からは、源流から中流、下流へと絶え間なく連続的に流れくだる姿、またその過程で幾度となく流れの向きを変え、あるいは蛇行しながら、瀬や淵など複雑で多様な景観を作り出している姿を、大概の人は思い浮かべるのではないだろうか。一方、都市近郊の実際の河川の多くは自然河川のイメージとは程遠く、ダムや堰などの人工構造物によって分断され、また河川改修に伴い直線化され、水路と化している姿をさらけだしている。河川の本質とも言えるこれら連続性と多様性の喪失が、そこに生息する淡水魚類に深刻なインパクトを与えているであろうことは容易に想像できる。しかしながら、その影響がどの地域で、どの程度、どんな生物に及ぼされているかを具体的に示すことは決して容易なことではない。とはいえ、それを明らかにしてゆかない限り、淡水魚類だけでなく、いかなる生物の保全も難しくなる。
 本講演では、北海道を主な研究地域として河川の分断と直線化の現状を明らかにし、その影響評価を行った結果についてお話したい。また、北海道に現在設定されている淡水魚類の保全地域が、どのような魚種をどの程度守ることができているのかについても評価を行ったので紹介したい。


ダムによる淡水魚類の種多様性と魚種ごとの生息確率の低下

 河口に至るまで連続的に流れるとはじめに述べたが、厳密に言えば海に注がれた水は大気へ、大気から降雨となり再び河川へと“循環する"と言うべきであろう。同じように河川と海との間を循環しているものに回遊性の生活史を送る生物がいる。川で生まれ、降海し、海で育った後に再び河川を遡上して産卵するサケやマスに代表される魚類がそうである。一方で、遠洋で生まれた後に河川に遡上し、川の中で大きくなった後、再び遠洋にむけ産卵のための回遊を行うウナギが北海道にも生息する。このように海と川を行き来する回遊魚が多いのが北海道の淡水魚類相のひとつの特徴であり、そのことは彼らがダムの影響を潜在的に受けやすいことを示唆している。


図1.ダムによる種数の減少量をモデルを用いて全道的に推定した結果。色の濃いところほど種数の減少量が大きい。

 北海道全域における淡水魚へのダムの影響を調べる上で、過去の魚類調査報告書を洗い出し、全道で過去半世紀の問に調査された7000地点以上の魚類データ(何種類の魚類が採れたか?どんな魚種が採れたか?)を整理した。そして、そのデータベースをもとに魚類の生息状況とさまざまな環境要因との関係を数式によって表現することができた(生息適地モデルとよぶ)。そして、個々の魚類データがダムの影響を受けたものであるかどうか(つまり調査地点が調査時にダム上流に位置していたかどうか)という要因をそのモデルの中に取り込むことで、ダムの影響を定量化し、また空間的に推定することができた1)2)3)
 その結果を簡単に説明すると、道北と道東など標高の低い地域を除く、ほとんどの地域で、ダムによって魚類の種数がパッチ状に減少していることが明らかとなった(図1)。


図2.標高が低いところに建設されたダムほど淡水魚類の種数を減少させる。

 また種数の減少量はダムの設置される標高が低くなるほど大きくなる傾向がみられた(図2)。つまり河口堰のように河口で分断された場合の種数の減少量が最大となる3)。また北海道で優占的に出現する37種の淡水魚類のうち、回遊性の魚類の生息状況(生息確率)がダムの影響を受けていることがわかった。しかし影響の見られた地域や程度は一様ではなく、種によってさまざまに異なる。例えば、スナヤツメやサクラマスなどは道東、道北、十勝平野、石狩低地帯などではほとんど影響を受けていないが、その他の地域ではパッチ状に生息確率が低下している。シマウキゴリは道南や日高地方沿岸、また石狩川支流などで局所的にダムの影響を受けている。またエゾハナカジカは日高地方から根釧原野にかけての沿岸地方に分布するが、日高地方では比較的広い範囲で影響を受けている。



河川の直線化による淡水魚類への影響


図3.久著呂川(釧路川支流)は1970年代から1990年代に
かけて流域の農地開発などによって直線化がすすめられ、河川の複雑度が大きく低下した。横軸に空間スケールをとってエントロピーの変化でそれをあらわした。
 つぎに河川直線化の影響について考えてみたい。これをダムなどの影響評価と同じように全道スケールで行うことは、残念ながら現状ではきわめて難しい。なぜなら全道の河川のどの区間が何年に直線化されたかという記録が、ダムなど河川横断構造物の記録以上に整理がされていないからである(おそらく役所の記録も多くのものがすでに抹消されている)。そこでまず現状を把握する目的で、いくつかの時代ごとに国土地理院から発行されている地形図を(コンピュータ上で)重ね合わせ、河川の直線化された部分を北海道全域から自動的に検出する技術の開発を行っている(酪農学園大学環境システム学部との共同研究)。また河川形状の複雑度をエントロピーによって表現し、その時代間の変化を調べている。釧路川水系のいくつかの支流では、農地開発や河川改修によって河川の複雑度が1970年代から1990年代にかけて1/3程度にまで低下していることがわかった(図3)。


図4.河川が蛇行することで瀬と淵が形成され、川底に浸透する河川水の流れが生じる。サケ科魚類の産卵環境にとってこの浸透水の役目は大きい。
 ではなぜ河川を直線化することが淡水魚にとってよくないのか?このメカニズムを説明することもまた単純ではない。そもそも高いところから低いところへ最短経路で流れるはずの“水"がくねくねと屈曲して流れるのは何故なのか?河川の地形学ではいまだに納得のいく説明が与えられていない。自然河川は曲がって流れるということを前提にするとして、では河川が屈曲すると何が起きるのだろうか。蛇行あるいは屈曲する河川を流れに沿って垂直にスライスし、その断面をとると、浅いところと深いところとが交互に繰り返されることに気づく(図4)。

 河川に生じた乱流が川底を局所的に洗掘し、その下流に洗掘された土砂を堆積するからである。この地形は言うまでもなく“瀬と淵"のことである。瀬淵は淡水魚類や水生昆虫の生息環境のユニットであることが古くから知られている4)。河川の蛇行が瀬淵という自然河川に特有な地形を形成する大きな原動力であり、それが淡水魚類の生息環境の骨格を形作る上で欠かせないプロセスであることは間違いない。また河川が屈曲することで、河岸にえぐれがつくられ、また河川に倒木が供給されるなど、河川の生態系を豊かにするとも言える。

北海道の淡水魚類保護の現状

 北海道で、最も組織的に淡水魚類が保護されているのは水産資源保護法によって全道一円に指定された32の保護水面(禁漁河川)においてであり、そこで一切の水生生物の採取を禁じる取り組みであろう。ダムの影響評価に使用した生息適地モデルを使って、前記の淡水魚類37種の中で、どの種が保護水面で特に高い密度で生息しているか、言い換えれば、保護水面がターゲットとしている魚種はいったい何なのかを探ってみた。その結果、保護水面で最も生息密度が全道平均より高かった魚種は、予想どおりサクラマスであることがわかった。それにつづいてアメマス、ハナカジカ、アユなど、サクラマスと同じような場所に生息する魚の密度が保護水面では高い(図5)。水産資源保護を目的として設定された保護水面は、保護すべき魚種の生息河川を見事なまでに的確に把握した上で設定されていることがわかる。ところが、逆に保護水面で生息密度が(全道平均とくらべて)低い魚種も少なからずいることが判明した。その数は全37種のうち27種までを占め、当然のことながらサクラマスとは生息環境の異なる魚類(特に止水域を好むようなコイ科魚類やトゲウオの仲間、あるいはエゾホトケなど)が多数含まれていた。これらの中には環境省のレッドデータブックで絶滅が危惧されている種なども含まれる。水産資源保護ではなく淡水魚類保護あるいは生物多様性保全を目的に掲げる場合には、従来とはまったく異なる視点から保護河川あるいは保全区域を設定する必要がある。


図5.全道の主な河川は574あるが、そのすべてに対して魚種ごとに生息密度を推定して順位をつけた。574のうち32河川は北海道によって保護水面に指定されているが、その平均ランキングを魚種ごとに計算すると、保護水面で特に密度の高い魚種とそうでない魚種とに分けられる。ちなみに32河川が無作為に指定されていたならぱ、その平均ランキングは通常230位から345位の間となる(斜線の部分)。

参考文献およびURL

l)福鳥路生「河川環境の変化と淡水魚の多様性一全道を対象としたダムによる流域分断の影響評価」淡水魚保護フォーラムNo.4in旭川,p3-7
 (http://www.city.chitose.hokkaido.jp/ffnet/)
2)福島路生「ダムと淡水魚の多様性」国立環境研究所ニュース23(3)
 (http://www.nies.go.jp/kanko/news/23/23-3/23-3-02.html)
3)福島路生「ダムによる流域分断と淡水魚の多様性低下-北海道全域での過去半世紀のデ一タから言えること」日本生態学会誌 55: 349-357.
4)福島路生「川が曲がって流れることの意味-イトウ産卵床分布との関係について」
 北海道の森と川No.9/10合併号,p.4-8
(http://homepage3.nifty.com/huchen/Obirame/reports/fukushima/fukushima04.html)

「北海道・淡水魚保護フォーラム No.6 
「なぜ、川の自然と淡水魚を守らなければならないの?」(2005年7月16日、札幌市) 講演要旨
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