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第5回北海道淡水魚保護フォーラム

藤本 靖 (ふじもと やすし)
 社団法人北海道スポーツフィッシング協会会長


 1995年に国内で初となる河川でのサケ釣りが忠類川でスタートしました。今年で10回を数え、毎年5000人を越える釣り人が忠類川を訪れています。
 忠類川が始まったきっかけと言うのは、秋に溯上してくるサケの親魚捕獲が廃止になった事から始まります。孵化放流を継続して親魚捕獲を止めた場合、回帰し溯上してくるサケをどう処理するのかが大きなテーマとなり、川に溯上してきたサケを「釣り」と言う手法で利用していこうと言うのが、忠類川のサケ釣りが始まった原点と言えます。しかし当初は、「釣り」と言う「行為」がすんなりと受け入れられた訳ではありません。現在のサケと言うのは漁業の為に造成された資源であり、まずは漁業としてサケを河口付近で漁獲すると言うのが地元漁業者の意見でもあったのです。しかしながら標津町では、海を舞台にした「サーモンダービー」と言うサケ釣り大会を数年前より導入していて、ルール化の下での釣りの在り方と言うのが、認知されていました。その事を訴えかけながら忠類川でのサケ釣りが実現したのです。

 さて開始から10年。忠類川ではいろいろな試みも実践されてきています。中でも平成13年から実施されている再放流区間と言う区域が存在しています。再訪流とは、釣りの用語に変換するとキャッチアンドリリースという言葉となります。ようするに釣り上げたサケを川に放す区間です。この区間の設定に至る背景には、色々な要素が含まれていました。
 第一に忠類川ではサケの釣獲数が2000尾に達しない状態が5年以上も続いている。しかし忠類川を訪れる釣り人の数は、年間6000人前後となり溯上(釣獲)数と釣り人数が上手く噛み合わなくなってきている。
 第二にキャッチアンドリリース区間導入前は、「釣り上げた魚をすべて持ち帰る」事が規則化されていた為に、下流部で溯上したサケが上流域まで溯上する前に釣り上げられ、また結果的には下流部に釣り人が集中して釣り場が混雑し、針が衣服にかかる等のトラブルが多発しつつあった。

 このことから、キャッチアンドリリースを導入することによって溯上数が少ないのをカバーし、釣り場となる流域を広く利用していく事を念頭にして実施しているのです。また多くの釣り人から回収したアンケートでも、キャッチアンドリリースを望む意見が多くありました。しかしその反面、従来通り魚体を持ち帰る為の区間も設定し、いろいろな場面を遭遇して調査が行われています。
 サケをリリースしたい人、サケを持ち帰りたい人、ルアーで釣りたい人、フライで釣りたい人、いろいろな釣り人のニーズを取り入れた河川管理方法の一つでもあると考えています。一つだけ欲を言うと、キャッチアンドリリースが実践されることで溯上してきたサケマスが自然産卵を多くするのでは…と言う希望的観測を持っていたのも事実と言えます。仮に一匹でも二匹でも多くの魚が、また忠類川に戻ってきてほしいと言うのが切なる願いの一つでもあるからです。実際には、キャッチアンドリリースを実践することによって以前に見られなかっただけの産卵行動が河川全域を通して行われるようになりました。この産卵行動も実際に川に来た釣り人が見る事が出来る為に釣り人の意識向上の一旦にもなっているような感もあります。

 キャッチアンドリリースが導入されて一番懸念された事に、放流後の個体が生存することが難しいのでは・・・と言う疑問符が常にありました。この事は、2つの要素を含んでいます。一つは針を飲み込んでしまう為のダメージです。この事は、溯上後のサケマスの習性で回避出来た感があります。これまで,河川へ溯上したサケマスは採餌行動をしないと言われていました。溯上したサケマスが釣れる事の検証はすっかりと解明された訳ではありませんが、威嚇行動により外敵を追い払う行動からルアーなどを攻撃すると言うのが、どうやら本質の部分であり、これにより針を深く飲み込んでしまうことが少ない為に致死率が低いと予測されます。 

 もう一つは、魚を針から外す際の魚体へのダメージです。海から溯上したばかりのサケマスは鱗が非常に剥がれ落ちやすいのが特徴です。キャッチアンドリリースを実践する場合、岸の上に魚体を上げて針を外すケースが多くある為に、この「鱗が剥がれ落ちる状態」が多く、その事により魚体に水棲菌が付着する事によって魚が、弱ってしまうと言う事が懸念されていました。しかしこのキャッチアンドリリースを実践してわかった事として、海からの溯上後、約6時間以内でサケマスの魚体が変化し鱗が剥がれ難く成る事が判って来ました。これは、潮の満ち引きで上流部への溯上が促進されますが、河口付近の淡水で十分に浸透圧調節をした魚から順番に上流へ向かう為に脱鱗する魚が少なく外傷が致命傷とならない様な状況が出来てきている事からの推測です。本来ならば産業廃棄物として処理しなければならなかった溯上サケを「釣り」を通して魚を有効に利用し、その上魚体数がキャッチアンドリリースを導入した事により、さらに有効活用していく事がしっかりと実践されているはずです。
 先に述べた自然産卵する魚は、以前と比べる事が出来ないほど増えています。しかし残念な事は産卵後の10~11月に台風等が通過するとその産卵床を全壊してしまうことです。河川増水は支川、本流域の産卵床を100%近いダメージを与えてしまいます。安定した水量や河川環境の必要性を常に考えさせられます。しっかりとしたデータ作りをする為にも正確な致死率の追跡調査や自然産卵の追跡などを実践し、今後の河川を利用する釣りの在り方への方向性を見出して行く事が課題と言えます。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.5
 「川の環境と魚の豊かさ」(2004年7月11日、釧路市) 講演要旨
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