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第2回北海道淡水魚保護フォーラム


稗田 一俊


稗田 一俊
 (ひえだ かずとし)

写真家・北海道八雲町在住


 
 私は、川魚の撮影をしてきた視点から、いくつか話題を提供したいと思います。
 北海道の川はどの川も淵あり、瀬あり、適度に蛇行し、見た目には申し分のない自然の景観豊かな川であり、水質が良く、水のきれいな清流だと思います。その川で撮影を続けていましたら、こんな水がきれいな清流から魚がいなくなるという現象に直面することになりました。

 水がきれいな清流なのに魚がいなくなる。
 なぜ魚がいなくなるのか‥?

 1980年ころまでは遊楽部川の支流でサケの撮影をしていましたら、サケが川底を掘った窪みに数匹のカジカが必ず見られました。サケが産卵する卵を狙って集まってきていたのです。しかし、現在ではその姿を見ることはなくなりましたし、このあたりからカジカが姿を消したのです。そればかりか、フクドジョウやシマウキゴリまでも姿を消しています。それでも、遊楽部川のこの支流は水がきれいな清流には変わりないのです。
 これはまた魚類だけに限りませんでした。当時、川底の石を持ち上げたら、たくさんの小石がついたまま持ち上がってきましたし、そこには気持ち悪いくらい多くの芋虫のようなトビケラの幼虫、カワゲラやヒラタカグロウの幼虫が見られたのです。しかし、今は石を持ち上げてもほとんど小石はついてきませんし、トビケラやカワゲラ、ヒラタカゲロウの幼虫も姿を消し始めており、水生昆虫の激減が特徴であることもわかりました。
 あらためて川底を観察してみると、多くの石が細かい砂や泥を被っており、川底の石の間にも沈殿した細かい砂や泥が見られ、石は砂や泥に埋まったような「はまり石」状態になっていました。水生昆虫がいた頃には、川底の石の表面は焦げ茶色の珪藻で覆われ、指で触ってもつるつるしており、今のように砂でざらざらするようなことは無かったし、石と石の間には細かい砂や泥は見られなかったのです。
 また、川全体を見みると、川岸や淵など、川のあちこちに細かい砂が溜まり、泥が溜まり、大きな石が目立っていた瀬から大きな石が減少し、川底全体に石が小ぶりになってきているのが見えてきました。
 サケやサクラマス、アメマス、アユなどの魚の繁殖行動からも、魚が川底を掘るたびに泥の煙が立ち上がるようになりました。かつてはこのような事はなかったのです。魚たちが産み落とした卵は、川底の石の間や石の表面で水にさらされて育っています。きれいな水の流れや石の間のわき水や伏流水の流れが、生育に必要とされるのです。透水性が多くの水生生物の生活や繁殖を支えている以上、石の間に隙間が必要なのです。ところが、細かい砂や泥が沈殿すれば、石の間の透水性は弱まり、また、絶たれることになるわけです。おそらく、これが原因で魚が減少したと見られるのです。つまり、水がきれいな清流なのに、川の構造や水が流れる仕組みが変わってきたのです。
 魚類や水生昆虫の生息する水中環境がこのように変わったのなら、川全体にも変化が現れているはずです。そこで、主に道南地域のいろいろな川をあらためて観察してみました。
 観察した結果を掲げてみます。

 1:大きな石が減少し、川全体に小ぶりになってきたこと。
 2:河床が極端に低下し、現在も急速に河床低下が進行していること。
 3:川岸の崩壊が相次ぎ、川のほぼ全区間で川岸が崖になっていること。
 4:川岸の渚帯まであった草木が後退したこと。
 5:水量が減少しているにもかかわらず、川幅が極端に広がったこと。
 6:根っこ付き流木が河原に散乱し、沿岸では漁具被害をもたらせていること。
 7:増水時にはこれまで見られなかったような泥水が流れること。

 以上のような特徴があります。驚くことにこの特徴はどの川にも共通した特徴でもあるのです。そして、雨が降れば決まって泥水が流れ、大量の根っこ付き流木が浮き沈みしながら流れ下っているのも特徴です。
 そんな川には興味深いもう一つの共通点があります。それは大規模ダムや砂防ダム、谷止工、農業取水堰などの土砂流下を食い止める構造物がすべてに共通して設置されています。
 ダムの弊害は近年明らかになりつつあるようですが、これらのダム類が河川の正常な土砂移動の需給バランスを壊したために、ダムより下流側で一方的に土砂が減少し続け、急激に河床が低下し、その結果、川岸との落差が広がり、川岸が相次いで崩壊を続けていると見られるのです。
 川岸の崩壊個所は災害認定されると災害補修されますが、河床低下の原因は是正されませんし、人が手を加えると河床低下はむしろ急速に早まり、補修個所の基礎が掘られて再被災を繰り返しているわけです。困ったことに、補修すればするほどに被災規模が拡大していますし、新たな被災個所も増加の一途なのです。
 最近になり、こうした相次ぐ再被災から、河床低下を食い止めるために河床を固定する「床止工」が導入されるようになってきました。
 しかし、魚類・水生昆虫などの水棲生物から見れば、河床を変えられることは生活の場であり、繁殖の場を失うことですから、種の存続にかかわる重大問題で危機的な事態を迎えているわけです。現実に、シシャモの大産卵場が袋体土嚢で埋め尽くされて壊されましたし、サケの産卵場もわき水や産卵河床が調べられることなく、コンクリートで固められているのです。
 河床が透水性を失う中、魚類・水生昆虫などの水生生物がわずかなよりどころとしている生活・繁殖の場がこうして奪われているのが現実でもあるのです。
 医療にたとえるなら、何よりも病根を発見して治療に当たることが求められているわけで、もうこれ以上の誤診を繰り返してはならないと思えてなりません。
 これが川を守るために今求められていることだと思います。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.2 川の環境と淡水魚の多様性を守る」
(2001年11月24日、大沼国際セミナーハウス) 講演要旨
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