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第2回北海道淡水魚保護フォーラム

後藤 晃

後藤 晃 (ごとう あきら)

北海道大学大学院水産科学研究科
 



1,1970年代以降における河川の環境変化とその主な原因

 本州に較べると、北海道の河川には自然環境がまだ多く残されていると言われます。しかし、それは北海道においては河川改修などの開発行為がおおむね本州よりも10~20年遅れで進行しているためで、その環境変化には本州の場合と基本的にほとんど違いが認められません。
 こうした河川環境の変化には、地球規模での温暖化、酸性雨、森林伐採などのグローバルな要因と、河川における各種の治水・利水・開発に伴う人為的環境改変および外来魚の移植などのローカルな要因の両方が多重に関わっています。特に後者では、河川・池沼の埋め立て、ダム・堰堤の建設、コンクリート護岸工事、河畔林の伐採といった物理的環境改変に加え、ブラウントラウトやニジマスなどの魚食性外来魚の移植放流および本州からのアユ種苗放流時などに混入したオイカワとモツゴなどの侵入によって、河川の自然生態系が急激な変貌を遂げてきたと言えます。



2,河川に生息する在来魚の種数減少vs移植魚(外来魚)増加


 こうした河川環境改変の影響を受けて、長い進化の歴史を経てこの地域の河川環境に適応してきた淡水魚類を含む水生生物たちは、種多様性・遺伝的多様性・生態的多様性において大きなダメージを被っています。
 北海道の河川・湖沼には現在、71種1亜種の淡水魚類が生息する(自然繁殖している)とみなされます。その中で、もともとこの島に分布している魚類は59種1亜種です(北海道レッドデータブック、2001)。
 これらの自然分布種は、その起源と分散から見ると、シベリア由来群、北太平洋由来群、日本列島本州由来群および北海道・サハリン由来群から構成されています。一方、生態・生活史パタンから見ると、サケ・マス類に代表される遡河回遊魚を多く含む通し回遊魚とその陸封魚が卓越し(全体の70%)、一生を淡水域で生活するヤチウグイやフクドジョウなどのコイ科・ドジョウ科魚類がたいへん少ないという特徴を持っています。
 しかし、近年の河川環境の急激な変化に伴って、こうした在来淡水魚類の多くの種が絶滅の危機にさらされています。今年3月に刊行された北海道レッドデータブック(2001)によると、その絶滅危惧種は、すでに絶滅したチョウザメを除いて、21種8地域個体群に及んでいます。一方、このような在来魚の脆弱化とは対照的に、外国や本州などから移植・迷入した外来魚の定着が増え、その種数は10種を越えています。ごく最近では、密放流されたオオクチバスとコクチバスが大沼湖沼群の一部で生息確認され、大きな社会問題となっています。



3,ケーススタディー:流渓川の環境と在来魚の種多様性の変化

 ここでは、河川環境の変遷と在来魚の種数変化の関係を、1970年代から約30年間にわたって観察してきた函館近郊の小河川、流渓川(流路延長7km)において見ることにします。
 この川はガロノ沢に源を発し、上磯町の山地部と平野部を流れ、国道229号線に架かる流渓大橋の下をくぐって函館湾に注いでいます。本流の上流部5 kmの範囲はミズナラ、ハンノキ、スギなどが生い茂る針広混交林に囲まれた谷間を流れる渓流域(河川形態のタイプではAa型)で、それを過ぎて谷好地区に入ると森林景観から一変して平野部となり、流路の屈曲部には立派な淵が発達した典型的な中流域(Bb型)になります。そして、さらに下って流渓大橋まで来ると、流れが穏やかになり100mほどの長さの河口域(Bb-Bc移行型)を呈します。本流そのものは短い河川ですが、いくつもの支流と枝沢が発達しているため、総流路面積ではおよそ52.2平方キロメートル、渡島大沼の約10倍の広さの水域を形成しています。
 流渓川は道南にある遊楽部川や厚沢部川に較べれば枝沢に相当するようなちっぽけな川ですが、1970年代までは、山麓地に湧水が豊富にあるため夏でも水枯れすることなく、安定した流水量を保っていました。そして、上流部で森林地帯を通って流れてきた川水は、大雨による洪水時でもない限り、いつも澄んでいて川魚の観察にはたいへん適した川であったのです。
 しかし1980年代に入ると、本流の中・下流部には幾つかの人工工作物が建設されたことにより、河川の景観や環境に変化が現れ始めました。その一つは、平野部で営まれている水田での稲作に必要な水を引き入れる目的で、農業用の堰堤が2ケ所で設けられたことです。いま一つは、下流部に人家の新築・改築工事が増え始めて、その地域を流れる川の岸部にコンクリートブロックによる護岸が施されたことです。
 建設された農業用堰堤(高さ3-4m)には魚道がなく、アメマス、ウグイなどの遡河回遊性魚類はそこで魚止めされ、堰堤上流部での産卵は不可能となったのです。一方、護岸ブロックの建設は、蛇行していた流路を直線化し、蛇行部に位置していた様々な大きさと深さの淵を幾つも消滅させたのです。また、この護岸工事に伴って、万太郎沢と本流の合流点の右岸下表にあった河原が潰されてしまったのです。
 1990年代に入ると、河川改修工事がいっそう頻繁に、かつ大規模に行われるようになりました。本州から20年遅れで、流渓川にも河川改修のラッシュがやって来たわけです。この時期には、人っ子ひとり住んでいない本流の上流部にも数多くの砂防堰堤が次々と設置され、また下流部の三好橋の下手には大規模な砂防堰堤が魚道を設けることもなく建設されていったのです。この堰堤工事によって、河口からせいぜい1km上流地点で通し回遊性の魚類の遡上が完全に阻害されたのは言うまでもありません(なお、この堰堤はその後、河川法の改正に伴って取り壊され魚道付きの堰堤に再建設されています)。
 いま一つの大きな改変は、流渓大橋の架け換え工事(1992年3月に施工終了)に伴って、その下手の河口部の両岸がコンクリートで護岸されたことです。この護岸工事によって、河口部に位置した大きくて深みのあるワンド(幅約20m、水深約3m;淵よりもっと大型の淀み)が消滅し、そこをハビタットとして利用していたスミウキゴリ、マハゼ、メナダといった汽水性の魚類も姿を消してしまったのです。そして、今年に入って、流渓川にも魚食性外来魚のブラウントラウトが侵入したことが確認されました。これは、希少化した在来淡水魚類の絶滅危惧にいっそうの拍車をかけると懸念されます。
 こうして、流渓川は人工的な景観と環境に改変され、今や自然河川としての構造と機能をほとんど失ってしまったと言えます。そして、こうした河川の人為的環境改変に平行して、1970年代に生息していた在来淡水魚(21種)は、種多様性が減少し(2001年で、18種を確認)、各種の生息個体数も著しく減ってしまったのです。


 
4,在来淡水魚をどのスケールで保全するのか?

 上記した流渓川の環境悪化と生息魚類の減少という現象は、道南ではほとんどの川でも共通したものと言えます。それでは、私たちは「なにをどのように守ればよい」のでしょうか?
 簡潔にまとめると、保全すべき対象は、在来淡水魚の遺伝子、個体、個体群、種、群集、そしてそれらの存在を保証している河川生態系であると言えます。これらを保全するためには、第1回フォーラムでも述べたように、以下のような生物多様性保全に関する基本的な考えと施策が必要であると考えられます。
 それは、1,河川・湖沼生態系スケールとして、水系の物理的・生物的環境を好適に維持することによって、そこをハビタットとして利用する個々の淡水魚種とそれらから成る魚類群集を健全に保全することです。この中には、各種や群集を脆弱化・破壊する外来魚の移植放流を規制・禁止することも含まれます。次に、2,地域生態系スケールとして、森林-河川、および河川-沿岸海洋といった陸水生態系に隣接する森林生態系や沿岸海洋生態系などとの連鎖を保全することです。そして最後に、3,地球生態系スケールとして、地球の環境とあらゆる生態系を保全することであると言えます。


「北海道・淡水魚保護フォーラム No.2 川の環境と淡水魚の多様性を守る」
(2001年11月24日、大沼国際セミナーハウス) 講演要旨
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